サクラチル

束の間の蜃気楼のように

咲いて散りゆく桜吹雪に

優美な麗句が彩を与える

晴着を纏うのは僅かだけ

儚く散るのが美しいなら

讃える言霊も儚く消える

花のない樹木が残るだけ

見向きもされず佇むだけ

若さを花に譬えるのなら

若作りは造花に近いもの

表層的な美であろうとも

讃える者も表層的ならば

行きずりの恋と同じ定め

少し輝いて見えた自分に

寄せられた賛辞の花言葉

僅かな間のほろ酔い気分

素敵な詩なんて忘れたよ

覚えているのは母のメモ

紙切れに書かれてた文字

「あたためて食べてね」

どんな詩歌もかなわない

普通の人の日常の気持ち

人々に正装があるように

木も生きるために着飾る

だから極論になるけれど

桜など散っても構わない

花なんて褒めなくていい

生きてるのは樹木なんだ

たとえ淋しく枯れたって

生きてる限りは命なんだ

花見で酔った歌声が響く

酔っぱらいは苦手なんだ

幹にみんなで寄り添って

お茶とおにぎりがいいね